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2010年12月17日

Respect for a sweet potato

私が勤めている会社のクソ社長(我々の仲間の「しゃ、ちょう」のことではない)が、この数年、社員たちにボーナスもろくに払っておらず、昇給もしていないことに対して、せめてもの償いとばかりに、毎晩のように何がしかの食事を差し入れてくれる。その気持ちはありがたいのだが、それが、良くてテイクアウトのカレーライスやお好み焼き、悪ければ割引キャンペーン中の牛丼であったり、さらにひどいときには賞味期限切れ間近で定価より20円引きになったオニギリやらサンドウィッチといったメニューなのであって、だから女子率の高い社員の間では、甚だ評判が悪い。
だが、クソ社長(我々の仲間の「しゃ、ちょう」のことではない)はバカだから、そんな社内の空気をみじんも察することもなく、今夜も、自らとぼとぼ歩いて、CoCo壱や、お好み焼き屋やら、松屋やら、コンビニに買い物に出かけるのだ。

そのクソ社長(何度も言うが「しゃ、ちょう」のことではない)が買ってくる差し入れの中に、最近、『焼き芋』という斬新かつシュールなメニューが加わった。

「うちの会社は、女の子が多いから、これはきっと喜んでくれるだろう」とでも思ったのだろうか。何しろ、巨人・大鵬・芋・蛸・南京の時代の人だ。そう思ったとしても当然である。そんなお気楽なクソ社長は(きっぱり断言しておくが「しゃ、ちょう」とは別人である)、事務所に戻ってきて、ほがらかな笑みを浮かべて、みんなに呼びかけるのである。

「みんな。お芋さん、買うてきたから、食べてよ」

その言葉を聞いて、ふと思った。

人は、なぜ、芋のことを、「さん」付けにするのかと。

確かに、食事は、人間が生きていく上で非常に重要な、無くてはならないものである。
しかし、芋以外に、「さん」付けで呼ばれる食材は、ほとんどないのではないか。
しかも「さん」付けだけならまだしも、丁寧な言葉遣いであることを表す「お」という接頭語まで付いているのである。
日本人が、それほど敬意を評する食材が、他にあるだろうか?
日本人の間では、食事のことは「ごはん」と総称するのが一般的ではあるが、それには「ご」という接頭語が付いてはいるが、「ごはんさん」と「さん」付けまではしない。
また、日本で「ごはん」とは、「米」を指示している場合が多いが、その日本人の主食たる「米」でさえ、「お米さん」と最大の尊敬の念を込めて呼ばれる機会は、ごくごく稀なのである。
ましてや「おパンさん」、「おパスタさん」「おミルフィーユさん」などという言葉は、後にも先にも一度たりとも聞いたことがないのだ。

また、芋を「お芋さん」と最上級の敬語で呼ぶのは日本人特有の、美しい文化である。なぜなら、英語で「ミスター・ポテト」とか、「ミス・ポテト」とか、「サー・ポテト」とか、「プロフェッサー・ポテト」とか、そんな言葉は聞いたことがないからである。英語以外の外国の言葉のことは、さっぱり知らないので、実際にはよくわからないが、きっと英語と似たようなもんだろう。

さらに突き詰めれば、「お芋さん」と呼ばれるのは、ジャガイモではなく、サツマイモに限定されている…という点も注目せねばならない。
つまり、我々、現代人は忘れがちになってしまっているが、サツマイモは日本人にとっての、キングフードなのであり、ソウルフードだということなのである。
その理由は、おそらく、糖分多めで栄養価が高そうなあの独特の甘味、土の中でしっかり育ってくれるボリューム感、そして少々荒れた土壌でも栽培しやすいのであろう逞しさ…。
それらの理由でサツマイモは、起源は江戸時代だか明治時代だか知らないし、ウィキペディアでさえ調べようとも思わないが、世の中ぜんたいが食の貧しい時代には、非常にありがたい、尊敬しても仕切れないほどの、有用な食材だったのであろう。
だから、サツマイモは、「お芋さん」と「お」も「さん」も付けて呼ばれるくらい偉い食べ物になったのだ。
以上のことは、すべて私がたった今思いついただけの推察にすぎないが、たぶん、おそらく、きっとそうに違いない、と断言する。

だが、我々の世代にとっては、糖分たっぷりで、栄養価が高くて、病気したときなどはお見舞いにも使われた食材といえば、バナナだったのではないか。
しかし、我々世代の人間は、バナナのことを「バナナさん」や「おバナナ」とは言わないし、ましてや「おバナナさん」などと、バカ丁寧には絶対に言ったりはしない。

それはつまり、食材が豊富に手に入る飽食の時代となって、我々日本人は、食に対して畏敬の念を払う心を失ってしまったのではないだろうか。
我々が少年だった30年ほど前には、「心の豊かさを求める時代」などという言葉がもてはやされたが、実際には、あれほど有り難がっていたバナナに「お」も「さん」も付けない、非常に心の貧しい人間に成り下がっていたのである。
なんという嘆かわしいことか。

今は、エコの時代。食文化を始め、さまざまな場面で現在の生活が見直され、モノを大切にしようと世の中ぜんたいが傾いている時代である。そんな今だからこそ、もう一度、食材に対する畏敬の念を込めて、呼び方まで改めるべき時が来たとは言えないだろうか。

そこで私は、こう呼びかける。
「みなさん、バナナのことは、『おバナナさん』と呼んであげてください」と。
ここまで、私の文章を読んで共感してくださったなら、実際にそうしていただきたい。
『おバナナさん』と呼んであげて。
オレは、絶対に呼ばないけど。恥ずかしいから。

で、私は結局、何が言いたいのかというと、とくにないのである。
ただ、クソ社長が(だから「しゃ、ちょう」とは違うってば)、「お芋さん」と言ってるのがおかしかったので、そこから思いついたことをダラダラ長々と勢いだけで打ち込んだだけなのだ。
あえて、言いたいことがあるとすれば、何度も言っているように、「私の会社のクソ社長と我々の仲間のしゃ、ちょうは全く関係ない別人である」ということぐらいだ。
だから、もし、ここまで真剣に読んでくださった人がいたとしたら、ズボンとパンツを脱いで土下座します。ゴメンナサイ。

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コメント (3)

バナナだけじゃなく、「マンゴー」にも畏敬の念を込めて呼びたいと思います。

たしかに「お〜さん」は少ないか。
類例をいくつか
お豆さん、お粥さん、お揚げさん
「お・御」だけまたは「さん・ちゃん」だけなら結構あるかも。
お餅、お新香、おうどん、おそば、お豆腐、
おビール・お酒(いかがですか)
御御御付(御が3つも)
飴ちゃん(関西方言かも)

社員さんへの差し入れは福利厚生の大きなポイントです。私「しゃ、ちょう」も品定めには気を使いまっせ。
「おいもさん」は季節的にもヒットかなぁ、とせめてそこはボスを評価してあげてください。

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