顔 -その2-
ひじの傷跡は、日々大きくなっているように思えた。
頭のしびれも、その頻度が高くなっているので、一度病院に行ってみることにした。
都心の大きな総合病院である。
外科の診察室に通されると、若い医者は妙な顔つきで傷跡の”顔”を診て、すぐに検査に行かされた。
腕のレントゲンと血液検査、そして頭のスキャンである。
検査から戻ると、担当が年配の医師に代わっていた。彼はこの病院の外科部長だと名乗った。
医者は穏やかな微笑を浮べながら私に病状を説明した。
「あなたのひじの傷は、火傷の後に、カヅシヨクモモドキという生物に寄生されてます。
ウミグモの仲間で、原始的な節足動物の一種と言われています。
しかし、詳しい生態は分かっていません。
筋組織を変形させて、”顔”のように見える、巣に形態に変えているようです。
組織の中でこのムシが活動すると、筋肉が勝手に動くんですな。」
私は、命に別状ないのか、そして頭の痺れとの関連を尋ねた。
医者は少し考えて、
「命に別状はないです。毒性はないし、寄生によって搾取される栄養分も微々たる物です。
ただ…、筋組織だけでなく、神経系統にも影響を及ぼす場合があります。
頭の痺れは、多分その影響ですな。」
腕から摘出できないのかと尋ねると、
「この状態ですと、腕を切断することになるかもしれません。
神経系統への影響も、凶暴化や麻痺なども前例がありませんので、現状を保っているのがよいのではないでしょうか。
寄生虫の類が宿主を殺すような事は、まずありませんからな。」
私は意識が乗っ取られる可能性がないか尋ねた。ここ数日、傷跡の”顔”が勝手に話す時間がだんだんと長くなっているのだ。
医者は一瞬表情を硬くしたが、私に気取られないように元の笑顔に戻った。
「はっきりとは言えませんが、節足動物に意思を乗っ取られるとは考え難いですな。
そんなことができたら、このムシを操って人類を支配する事も可能、という事になってしまいます。」
語るに落ちたな!そうか、お前はこのムシを使って人間を支配する研究でもやっているんだろう。
いや、お前も既にこのムシに寄生されているのかもしれない。お前だけじゃなく、政財界や軍事関係、この国の権力者は、みんなムシの意思で動いているのかもしれない。
きっとそうに違いない!
私は本当の事を白状させようと、医者に飛び掛った。しかし、いつも間にか私の後ろには、白衣の若者が数名待機していて、立ち上がった私をすぐさま羽交い絞めにした。
チクショウ!コノ野郎!放セ!
私は羽交い絞めにされながら、わめき、もがいた。
医者は、少し呆れた表情で、看護婦から私の検査結果を受け取り、さっと目を通した。
検査結果を見た医者は、先ほどとは全く違う目つきで私を見た。そして、ゆっくり私に近づき、
「何故、こんなに凶暴性があるのか、不思議に思っておったのだが、あなたは特殊な検体のようです。」
と言って、私の頭に右手を近づけた。
バカヤロウ!触ルナ!
私はなおも必死にもがいたが、男達に自由を奪われ、何も抵抗できない。
「何もしませんよ。ただ、あなたに見せてあげるようと思いましてな。」
そう言って、医者は私を鏡の前に連れて行き、私の右側頭部の髪の毛をつかみ、押し上げた。
「ほら、ここにもあるでしょう。見えますかな?」
医者に促され、私は正面の鏡に目をやった。
押し上げられた髪の毛の下、私の側頭部には小さいけれどはっきり、ひじと同じ傷跡の”顔”があった{Θ_Θ}。
「あなたは以前から、既に寄生されておったんですな。
それが、今回の火傷で、別のクモモドキが寄生した。
人格の凶暴化は複数の寄生と何らかの関係があるのやもしれません。
まぁ、それはこれからゆっくり研究させて頂きますよ。」
医者は男達に、私に鎮痛剤を与え、隔離室に連れて行くよう命じた。
「大事な検体だから、なるべく傷つけないように。
万が一、死んだらすぐに解剖室に運びなさい。
私は今から長官にご報告申し上げんと。
凶暴な人格までコントロールできるとなると、さぞや長官もお喜びになるだろう。
いろいろと使い道もあるだろうから。」
首筋に鎮痛剤らしき薬を注射され、私は男達に運ばれていく。
オレノ体ニ何匹カノ”クモ”ガイテ、神経組織ヲ取リ合ッテイタナンテ…。
薄れる意識の中で私は、そう思った。
しかし、薄れていく意識事態が私の意識なのか、どちらかの”クモ”のものなのか、オレニハ、モウ判断デキナイ{θゝθ}。
担当/ここはどこ?私は誰?なARIO

コメント (1)
ネタ日記から、ショートショート、そしてSFドラマに…
次の展開が大いに楽しみですね。( ̄▽ ̄)
投稿者:hiro | 2007年07月17日 23:08